運命の診察

親知らずは抜いたし扁桃腺の腫れも引いたというのに40度の熱は未だに下がらない。抗生物質を昨夜で切らしてしまったので今朝は病院へ行かなくては。通常の3倍の鎮痛剤を野菜ジュースで飲み干し外出着に着替える。ダメだ、真っ直ぐ立ってられない。母から掛けられた『大丈夫なの?一緒に着いてってやろうか?』の言葉に塩らしく頷いた。病院までは歩いてたったの1、2分の距離だというのに。

待合室は冷凍庫さながらの寒さに感じる。ダウンジャケットのボタンは厳重に閉めているのにほとんど効果がない。目を閉じ、ひたすら自分の名前が呼ばれるのを待ち続ける。抗生剤さえ手に入れば帰れる。何度もそう唱えながら。。。

『亮臣さん、2番へお入り下さい』
無機質なアナウンスに促され診察室の扉を開けると、カルテに何やら記入しながらうつむいたままの先生が僕に尋ねた。
『どうしたぁ?』
『ええ、扁桃腺の痛みは消えたんですが熱が下がらなくて。。。』
僕がそう言い終えるのが早いか先生は顔を上げるや否や僕の喉ではなく目を大きく開き、強い口調でこう言った。
『すぐ血液検査しよう』

とはいうものの、小さな町医者に血液検査の設備は置いていない。全て専門業者へ委託している。僕が看護婦さんに採血されている間、先生は大至急でどのくらい時間が掛かるかをその業者に訊ねていた。そして受話器を置くと
『○○病院へ行きなさい。今なら午前中の受付に間に合うから』
今しがた採血を終えたばかりの僕にそう告げると、矢継ぎ早に紹介状を書き始めた。

ここで一緒に来ていた母も診察室に入れられ、僕が血液の病気にかかっている疑いが濃厚なこと、すぐに大きな病院で精密な検査と入院が必要なことが説明された。

おいおい、ちょっと待ってくれよ。血液の病気だって?俺は扁桃腺を診て貰いに来たんだぜ。それがどうして入院になっちゃうわけ?